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全は個。個は全。十字架を背負った男たちの起業物語。株式会社WIDE 代表取締役 北原 誠大さん

全は個。個は全。十字架を背負った男たちの起業物語。株式会社WIDE 代表取締役 北原 誠大さん

記事:山本卓(合同会社Light gear代表) 「友達同士で起業はしないほうがいい」。そういった記事を目にすることがある。責任の所在が分からなくなる、公平性がなくなる、意思決定が遅くなるなど、さまざまなデメリットが存在するからだ。そんな一般論を覆すスタートアップが佐賀県にはある。佐賀大学発の株式会社WIDEである。代表の北原誠大さんに、友達同士での起業をするためのチーム作りについて話を伺った。 4人合わせて、株式会社WIDEです。 ――佐賀県の起業家として私と同期の北原さんとこうしてゆっくりお話しするのは初めてで楽しみにしてました。株式会社WIDEについてお話をお聞かせください。 北原誠大(以下、北原)さん 私たちの会社は、主に部活動関連事業とスポーツ関連事業の二つを展開しています。部活関連事業は、2023年3月にリリースした部活動と外部指導者を繋ぐマッチングプラットフォーム「sukusupo(すくスポ)」です。子供たちに専門的な指導を届けたいという想いから始めました。自治体の方とお話をしながら外部指導者や教育委員会などの手が届かない部分のサポートをし、会議レベルから入り、部活の未来を一緒にデザインしていくような伴走支援的なこともやっています。部活動のオリジナルグッズを作り販売できるサービスも始めました。他に、サガテレビと行っている佐賀県内のスポーツの情報が集まるWEBマガジン「かちスポ」のライターといった執筆活動など、スポーツ関連の事なら何でもやっている会社がWIDEです。 ――今まで「すくスポ」をネットニュースやビジネスコンテストなどで目にすることが多かったですが、他にもいろんなことをやっているんですね。 北原さん 佐賀県はプロスポーツが盛んですし、SAGA2024(第78回国民スポーツ大会及び第23回全国障害者スポーツ大会の愛称)がまもなく開催されますので、そういった関連事業を受託させていただいたり、「スポーツ関連の会社」と思ってくださる方が増えてきました。 【左から、三枝(みつえ)功伸さん、永石恒陽さん、山口修平さん、代表の北原誠大さん。】 ――現在、北原さん合わせて4人のメンバーですが、個々でも仕事をしているんですよね。高校の部活指導の仕事は個人で請け負っているんですよね。 北原さん そうですね。高校から「外部指導してください」とお願いされまして。会社とは別には個人の仕事ですが、自分としては指導をしながら現場で得た経験を会社に持ち帰って事業に活かすところがあるので、繋がっています。 ――その他の皆さんはどんな仕事をしているんですか? 北原さん 永石恒陽は、個人では、情報教員を持っていたので、現在敬徳高等学校(佐賀県伊万里市)で非常勤講師として働いています。会社では、サガテレビから受けている『カチスポ』の業務を担当しています。山口修平は、子どものころから野球をしていて、高校ではキャプテンを務めていました。その経験を活かし、個人で、地元の整骨院で子供たちがストレッチメニューするときのサポートをしています。あとは経理関係の仕事を受託しています。会社では、スポーツの教室のイベントなど企画を担当しています。三枝功伸はデザインが得意なので、チラシなどの製作やメタバースのグラフィックの構築などを個人で受けています。会社では、お気に入りの部活を応援するサイトのオリジナルグッズ制作を担当しています。 ――WIDEのみなさんってすごいスキル持ちばかりなんですね!個人で活動もしますが、それぞれがトップとなって役割分担しているんですね。 北原さん 僕も外部指導を個人で行いながら、「すくスポ」事業をトップで進めています。それぞれが個人で仕事をしながら、WIDEで請け負っている事業はそれぞれがトップとなって事業を進めています。これまでいろんなプレゼン大会やネットニュースなんかで取材対応をしているのが僕なので、「WIDEって北原君しか出ないよね」って言われるんですが、WIDEを維持してくれているのは他の3人だったりするんですよね。 【部活動の外部指導を行う北原さん】 きれいごとだけじゃない。教育の世界って課題がたくさん?! ――それぞれがトップとなって事業を行うWIDEですが、小さい頃から一緒の友達で設立されたんですよね。 北原さん 4人のうち3人は小学校からの幼馴染なんです。大学2年生の頃、コロナ禍で大学がオンライン授業になり、地元の鹿島市に4人が戻ってくるタイミングがありました。現在会社がある私の祖父母の家に集まり、オンライン授業を受けたりしながら、寝る時間を削ってずっと話をしたり1年間ほど寝食を共に過ごしていました。 ――秘密基地みたいで、おもしろいじゃないですか! 北原さん 3年生に近づいてきて就職活動を始めないといけないと感じ始めた頃、「将来はどうするの?」と未来について、みんなで話すようになりました。僕は寝食ともに過ごした1年間がすごく楽しかったということもあって、就活するイメージがわかなかった。ただ漠然と「このままずっとこの仲間で一緒にいれたらいいな」と思っていました。 ――それで起業をしようという話になったんですか? 北原さん 「起業ってよくない?」と、はじめに言い出したのは、山口か三枝あたりだったと思います。もともと僕たちは、人と違うことをするのが好きな仲間でした。高校の文化祭で恒例になっていたダンスを欅坂46のダンスに変えました。入学当時からずっと見てきた僕たちは、「恒例行事はなんかサブくない?違うことやろう」と冒険したくなったんです。数十人有志が集まって、文化祭当日までめちゃくちゃ練習しました。最終的に自分たちが作ったもので、みんなが楽しんでくれて認められたという成功体験が忘れられないといこともあって、就職活動ではなく起業という道をみんなで歩んでいこうとなったのかなと思います。 【北原さんの祖父母が住んでいた家は、秘密基地のようだ】 ――北原さんは、前向きに起業を考えていたんですか? 北原さん 本当は安定の道に進もうと思っていました。両親が教員でもあり、自分も教育学部に入学して、将来は教員になるみたいに考えていました。だだ他の3人が起業で盛り上がっている姿を見て「本当に大丈夫なのか」と心配の目で見ていたのがスタートでした。 ――北原さんが起業を決めたきっかけは何だったんですか? 北原さん 実は大学1年生の頃に思うことがありました。教育学部の講義で「教育の世界がいかに厳しい世界なのか?」という、教育現場における教員の労働環境の過酷さについて話してくれた先生がいました。普通の講義だったら、いかに教員という仕事は高貴で素晴らしいものなのかということを基本的に教えられると思うんですが、その先生の授業は「こんな過酷な環境だけど、教員になりますか?」と現実を突きつけられるそんなものでした。 ――リアルを感じさせてくれる講義って、かなり刺激がありますね。 北原さん 講義の中で、取り上げられていたトピックの一つが部活動でした。部活動も教員を苦しめる一つの要因だと教えてくれました。僕は高校生までは部活をする側で、「部活って素晴らしいもの。青春の1ページだ」と思っていたんですが、部活には先生を苦しめているという側面があり、システムとして不完全なモノだと気づかされました。卒業後、教員になってサッカーを教える人生を送ろうと思っていたのですが、「なんかそうじゃないな」と立ち止まったんです。 ――北原さんは、部活動の先にある、甲子園やインターハイなんかでキラキラした世界がある一方で、いい環境でプレーできない生徒がいることも部活システムの欠陥と感じていたんですよね。 北原さん 教員ってたくさんの問題を抱えながら仕事をしている職業だと気づき、講義を受けながら、様々な部活動に関する文献を読み、部活動のメリット・デメリットを調べ、1年生の終わりごろに一本のレポートにまとめました。そんなことを思い出したのが、みんなが「起業したい!起業したい!」と盛り上がっている時でした。僕はみんなに「何も決めていないのであれば、部活動の問題解決ができる起業なら俺も乗りたい」と書いたレポートを手渡し、思いを伝えました。3人とも部活をやってきた人間だったので、共感してくれて、「部活動を僕たちが変えよう」と起業を決意しました。 同じ十字架を背負った熱い絆が生んだWIDEというチーム ――大学3年生の頃ですね。学生時代に起業をすることへの不安はなかったんですか? 北原さん 怖さはあまりなかったです。だた、「何からすればいいんだろう?」と疑問がありました。隠しても仕方ないので全部話そうと思います。実は、WIDEのメンバー全員マルチ商法に引っ掛かり総額120万円借金させられまして。 ――え?マジですか? 北原さん 大学2年生の春ごろですかね。永石が広島でバイトしていた時に「ビジネスについて学べる情報商材があります」と声をかけられたんです。右も左も分からなかったこともあって、永石がまず布教されまして。鹿島市に戻って来た永石が「みんなでこのビジネスやろう!」って誘われ、僕たち全員、「起業するぞ!」ってモチベーションが高かったので、その情報商材を購入するために全員がやることにしたんです。 ――購入っていくらかかったんですか? 北原さん 一人30万円です。大学生の30万円って払えないじゃないですか。マルチ商法の方から「消費者金融で借金してください。この商材買えば30万円なんて半年で返済できますから」と。僕たちは、そういうものなのかなと思って。 ――みんな素直すぎませんか?! 北原さん 今だったらわかるんですが、当時の僕たちは何からしたらいいのか分からなかったので、この人が導いてくれると思い込んでしまったんですね。起業したいと、モチベーションが高い状態の時に、「起業するんだったら、こういうリスクをちゃんと取らないといけない時がある」とか、それっぽく言ってきて。「確かに!」と納得させられていたといいますか。マルチ商法ってことに気づかなかった。それに気づかせてくれたのが、株式会社Dessunの高橋さんです。「部活動の課題を解決するために起業をしたい」とWEB上に記事を書いていたのを、たまたま高橋さんが読んでくれて、DMを送ってくれたんです。驚きましたね。メンバーに「なんか社長さんから声かけられた!どうしよう!」って。すぐに高橋さんにお会いに行きました。起業したいと話をしながら、何も動けていなかったので「実はこんなビジネスを始めようと考えています」とマルチ商法の話をしました。すると高橋さんの顔が曇ったといいますか「それ、絶対アウトなやつだよ」って言われて、そこで気づいたんです。僕たちは騙されていたことに。 【真ん中でピースをしているのが、株式会社Dessunの高橋さん】 ――高橋さんがいなければ、どうなっていたかと思うと怖いですよね。 北原さん 契約書も書かされていたので、取り戻せないだろうと。4人の総額120万円の借金を背負った状態から、僕たちの起業がスタートしました。この話は借金を返すまで言えないなと思っていましたが、返済が終わったので言えるかなと(笑)。 これから起業をする学生さんの役に立てるのならって。 ――身をもって語れるものがあるって財産ですよね。 北原さん こういう経験があったから、この大人が信用できるのかどうかみたいなものは、絶対に見るようにしよう思いましたね。高橋さんと出会い、佐賀県が行っている起業や新しい事業をおこしていくための企画とコミュニティづくりをしてくださるStartup Gateway SAGAに参加することが出来たことは、本当に良かったです。まだ何も成し遂げていなかった自分たちを温かく迎え入れてくださったこのコミュニティにいれば、「僕たちは成長できるんじゃないか」と本気にさせてくれた。 ――Startup Gateway SAGA のイベントでみんな皆勤賞だったですよね。私も皆さんと会う度に成長している姿に、刺激をいただきました。 北原さん WIDEという会社は、異様に仲がいいんです。ただそれだけではなく、1年間、寝食を共にして120万円という十字架をみんなで背負ったことで、「部活動の未来をみんなで作ろう」と本気で目指せるチームになりました。 学生起業家から社会人へ。グラデーションの中での意識したチームの役割 【2023年大学を卒業し、社会へ飛び出した】 ――学生起業家として会社を立ち上げ、卒業し、社会人として仕事を行うWIDE。会社としての意識の変化はありましたか? 北原さん 幼馴染や友達同士の起業っていろんなデメリットがあると言われることがあります。一企業として利益を求めるべきだけど、「現状楽しいからいいよね」って馴れ合いで終わらせてしまう部分があったりして、甘えてしまう部分があります。会社を成長させるより、「倒産しないようにするためにはどうしたらいいか」っていう思考に陥りがちになる。ただ会社2年目に入り、大学を卒業し個人で仕事をしながら会社経営をするようになっていくと、会社への帰属意識が若干薄れてきた部分があり、丸一日かけて全員で話し合う総会を行ったんです。 【丸一日缶詰になりながら、今後の会社経営について話し合った】 ――総会では、どんなことを話し合ったんですか? 北原さん この先委託に頼らず、現状に甘えずに攻めの経営をしていかなくてはいけない。各々で役割を持つことを明確にしようと話し合いました。WIDEの代表は僕ですが、みんながプレイヤーであって、みんながリーダーでもある。同じ感覚でいられるように、友達同士だからできる会社経営の形を目指すことになったんです。 ――この仲間だからできる起業の形が、ここにあるわけですね。 北原さん 僕は教員になるという、目の前に道を掴める状況があった中で、この3人と起業すると決めました。この仲間がいなければ進むことは出来なかったと思っています。自分の心の支えであり、原動力は、仲間の存在だと思っています。 ――これからのWIDEが目指す未来にはどんな世界が広がっているのでしょうか。 北原さん 部活で困っている子どもたちの役に立てる自分たちでありたいと思います。そのために「すくスポ」という事業を広げていきたい。そして、その先の未来は、やはりこの仲間とずっと一緒に仕事をして、ワクワクすることをやり続けていきたいです。 北原誠大さんプロフィール 2000年佐賀県生まれ。佐賀大学教育学部在学中に、高校の同級生と同社を起業。「すべての子どもたちに専門的な指導を」を合言葉に、部活動と指導者が繋がるマッチングプラットフォーム「sukusupo(すくスポ)」を運営する。現在、県内の高校でサッカーの外部指導者も務める。

「地方企業をカッコいいチームが救う?!」デッサンの夢の向こう側。株式会社Dessun 代表取締役  高橋 真哉さん

「地方企業をカッコいいチームが救う?!」デッサンの夢の向こう側。株式会社Dessun 代表取締役 高橋 真哉さん

記事:山本卓(合同会社Light gear代表) 社会貢献のプロフェッショナルNPOとタイアップする企業が出会う、マッチングプラットフォーム「TIE UP PROMOTION(タイアッププロモーション)」や、現在開発中の「トラノマキ」など、システム開発を手がける株式会社Dessun代表取締役の高橋 真哉さん。数々のビジネスコンテストで受賞するなど華々しい活動をしている。地域企業の持続可能な未来をデザインする会社としての夢と、高橋さん自身が描く夢の向こう側について、話を聞いた。 会社の秘伝の書?!を簡単に構築できるサービス「トラノマキ」 ――「トラノマキ」という新しいシステムを開発されていると聞きました。 高橋 真哉(以下、高橋)さん 一言でいうと、従業員向けのマニュアルを、BASE(ベース)やShopify(ショッピファイ)のようなインターネット上で商品やサービスを販売するウェブサイトのように簡単に作成できるサービスです。会社内で作成されたマニュアルをより簡単に構築し、情報共有できるのが特徴です。 ――マニュアルって、作業の手順や流れを書いているものですよね。 高橋さん 例えば、飲食店に入社した際、お客様への対応や調理方法など、飲食店としてのマニュアルがあると思います。それって紙で渡されませんでしたか? あれって1回見たら、一生見なくないですか。マニュアルを作成しても、一生見ない場所に置かれてしまうことがあります。これは飲食店に限った話ではなく、企業も同じです。残業に関するルールや福利厚生の使い方など、会社には様々なルールがあります。散らばった情報を従業員がアプリ内で閲覧できるようにすると、教える側としても新人研修などの際に時間を短縮でき、学ぶ側もすぐに確認でき業務効率が上がるようになり、会社としての成長スピードが早くなると思います。トラノマキのシステムを使用してマニュアルを見える化することで、業務効率化につながると考えています。いわゆる会社のルールブック「虎の巻」みたいなものをテキスト化してまとめておく提案です。 ――面白い事考えますね。 高橋さん 現在はまだベータ版ですが、システム開発中にも関わらずお客様からの反響が大きく、多くの経営者が抱えている課題にアプローチできるシステムだと感じています。 【ホワイトボードに書いてわかりやすく説明をしてくれている高橋さん】 ――経営者が抱える悩みって、どんなことが多いんですか? 高橋さん 企業の課題は多岐にわたり、業績の課題や新規事業、後継者問題などがあります。全国的にもそうですが、佐賀でも人口減少が課題とされている中で、人材採用にも多くの企業が悩んでいます。 ――高橋さんはIndeed(インディード)の日本立ち上げメンバーとして3年間、その後リクルートにも4年ほど出向していましたよね。採用に関しては、その道のプロ。採用事業という側面から見る今の佐賀ってどう感じていますか? 高橋さん 採用を考えると、佐賀県全体の人口が減少傾向にあることが課題と考えます。人数が少ない中での人材争奪戦が続いており、「こっちが採用すればあっちが損する」という状態です。全体の人口や若年層の数を考えると、地方で少なくなるのは仕方ないことだと思います。例えば100人の会社があったとします。従来は100人で全ての業務を行っていましたが、採用が難しくなり90人で対応する必要が生じた場合、仕事の負担は1割増えることになる。これが離職率の上昇につながる要因となります。これが現在の日本の状況です。もちろん、私はこの課題に対し、10人を採用するといった方法もありますが、1人あたり1時間の業務を削減できるシステムを導入するとどうなるでしょうか? ――100人で1日100時間の工数が減る。 高橋さん それを20日間やろうと思ったら2,000時間です。2,000時間って大体18人分の労働時間にあたります。会社は18人分必要なくなるんです。 【開発中のトラノマキのシステムの立ち位置の図】 ――ということは、100人でやっていた仕事が、82人で済むとなると、人件費の削減にも繋がりますね。 高橋さん 82人の仕事を90人でやるとなると、従業員の満足度はめちゃくちゃ高くなるじゃないですか。これからAIの進歩により、人の仕事って奪われる可能性が十分ある。そんな中で目の前の10人を採用していくことにだけに、重きを置くことに疑問を感じました。企業として30年後も40年後もその人を雇用し続けられますか? 経営者として疑問だと思うんです。だとしたら、早い段階で「システム開発をし、10人分の仕事がまかなえるのではないか?」と仮説を立ててから進んでいく提案をした方がいいのではないかと私は考えています。このトラノマキという自社サービスは、マニュアルを見える化するシステムです。マニュアルを自分のスマホで確認できるようにすることは、離職率を下げる一つのソリューションになるし、業務効率化や業務改善など企業課題を解決できる一つのツールになると考えています。私ができる採用課題に対するソリューションは、リアルに採用していくことも可能ですし、システムを開発して業務効率化を行い、従業員の負担を軽減させることもできます。 トラノマキのきっかけは「ムツゴロウを釣る人!?」 マニュアル化は未来をデッサンする方法 ――今やIT企業として、多方面で活動している中での、今回の「トラノマキ」というマニュアル作成アプリの開発。このシステムを作ろうと思い立ったきっかけは何だったんですか? 高橋さん 佐賀県鹿島市で打ち合わせをしている時、ある方のお話を聞きました。ムツゴロウの伝統的な釣り方を継承している最後の一人がいるが、後継者がおらず、その方がいなくなれば伝統が途絶えるという話でした。このことを聞いた時に「そういった後継者不足って田舎は特に多い」と思ったんです。たとえば、町の中華屋さんのチャーハンが美味しかったとしても、後継者がおらずその味が次の世代に受け継がれない可能性があります。この後継者不足という課題は地域だけでなく、中小企業でも起こっていることです。文化や歴史、知識が途絶えることは社会的にもったいないと思いませんか? 【有明海のムツゴロウ】 ――確かに。 高橋さん 担い手が現れず文化や歴史・知識が途絶えてしまう。「それは何故だろう?」と考えたんです。いろんな要因がありますが、一つとして「社長がやっている事を知らない」ということがあるんじゃないでしょうか。「背中を見て、目で盗め」ではなく、「社長のやっている事をマニュアル化できたら良いのではないか」と考えたのがきっかけでした。 ――マニュアル化することで、知識や情報の引継ぎにもなるということですね。 高橋さん 中小企業の社長さんが行っている業務、たとえば銀行取引などは、社長一人で覚えている場合が多いでしょ。メモに残していない情報がたくさんあると、いざ誰かに会社を引き継ごうと思ったときには時すでに遅し。会社経営は社長にしかできないことが多いため、引き継ぎができなくなるという問題が生じます。そうならないためにも、経営者の知識や会社ルールを一つのマニュアルにまとめ、次世代に引き継ぐ準備をすることが、10年20年と企業の持続的な未来を描くことに繋がるだと思います。 ――もともと存在していた知識や経験など会社のルールを、言語化させる。そんな感じですね。 高橋さん 背中を見て盗めと言ってたお寿司屋さんで、シャリを作るのに5年かかっていた従業員が、このトラノマキで自分のスマホで確認することが出来るとどうなりますか。 ――従業員の成長スピードが上がる。 高橋さん そうです。覚える手間を効率化し、教える手間を省くことは、業務改善や技術の継承につながります。有田焼の製作過程などもマニュアル化すれば、「有田焼を焼いてみたい!」と後に続く人が出てくる可能性もある。 【ひとつひとつの言葉を丁寧に説明してくれる高橋さん】 ――マニュアルがあることで未来を描くことに繋がる。持続的な企業の未来はDessunのミッションとイコールするわけですね。 高橋さん そうですね。会社経営をしていると突然、経理や要職の人材が辞めてしまうことがあると思います。そういった時に、このトラノマキに会社のマニュアルを集約しておけば、助かる経営者がたくさんいると思いませんか。私は、ムツゴロウのお話のように「10年後の未来が描けない」と悩む経営者の助けになりたいんです。 経営に触れた瞬間に感じた想い「経営者の為だったらなんでもやります」 ――そうした高橋さんの想いは、Indeed やリクルートで働いていた時代に培ったものなのでしょうか? 高橋さん 当時の仕事は、採用のサポートのみをしてきました。「そんな年収じゃ採用できませんよ」とか、私自身、採用についてなんかすごく簡易的に考えていました。採用のやり方について教える感じだったんです。ある時期、香川県の会社の顧問になった時に、PL(損益計算書)を見せていただいたことがありました。そこには、売上や原価が書いてある中で、人件費のコストが全体の7割を占めていました。尚且つ最低賃金上昇時期だったことも加味している時に、「売上があって、それから人件費などいろんなものが引かれて最後に残るお金ってこれなんだ」とわかりました。これまで2次元で考えていた経営というものが、もっと複雑化して見えました。世の中って単純なものではなく、いろんなものが複雑に混ざり合っている。採用って会社を運営する中での一つのツールでしかないんだと気づかされました。 ――いままで見ていた世界観が広がったんですね。 高橋さん 当時の私は、会社に何人採用できたか、という世界感で仕事をしていました。しかし、採用の本当の目的は「売上向上とその結果会社にどれだけの利益をもたらすことができるのか」にあることがやっと理解できたんです。それがきっかけでIndeedを辞め、佐賀で起業することにしました。 ――高橋さんとお話していると、仕事においての経営者の方への想いが強いイメージがあります。なぜ経営者の助けになるシステム開発に重きを置いているんでしょうか? 高橋さん 私は田舎の社長が大好きなんです。地域を盛り上げることはどの地域でも必要で、その地域を盛り上げている地域企業の経営者の味方であり続けたいと思うのが、システム開発をする理由だと思います。 【誰の為のシステムなのかという問いは、高橋さんの根本にある想い】 ――今でも、仕事をする際に大切にしている想いはなんですか? 高橋さん Indeedには「ジョブシーカ―ファースト(求職者を一番に考える)」という言葉がありました。Indeedが決めたルールに、某大手企業がそぐわないとして広告掲載を打ち切ったことがあったんです。 Indeedは広告業というものなので、企業からお金をもらって経営をする会社です。お金も当然大切なのですが、企業よりもジョブシーカ―(求職者)を大切する理念を目の当たりしたときに思った「誰のためのサービスなのか」という軸は、今の私の仕事をする際に、もっとも大切に考える想いだと思います。 ――高橋さんにとっての、誰の為のサービスなのかの誰は“経営者”なんですね。 高橋さん 人を採用している経営者をめちゃくちゃリスペクトしています。だって人件費ってものすごく高くないですか。一人を採用するのに年間500万円必要だとして10人だったら、5,000万円でしょ。人件費を払いながら、会社を経営し続けている経営者は、私にとって全員を尊敬します。だから、どんな手段であっても、私は経営者の為、力になりたいんです。 高橋さんがデッサンする夢の向こう側 ――Dessunを今後どういった会社にしていきたいですか? 高橋さん 「企業の持続的な未来を描こう」っていうのがうちのミッションです。そのためには何をしてもいいんじゃないって思ってるんですよ。企業が5年後も10年後も、100年後も生き続けるために、何かうちのサービスとか、僕のノウハウとか従業員のノウハウとか、そういうのを掛け合わせた上で、その企業がより持続的にその経営を行っていく手助けができたらと思っています。 【会社の事ではなく、自分自身の夢について語る高橋さん】 ――夢の為に手段を択ばない姿勢。めちゃくちゃカッコいいです。 高橋さん 抽象的なんですけど、憧れられる会社になりたいんです。「Dessunみたいな会社を作りたい」と思ってもらえる会社にしていきたいと思っています。佐賀ってなんで人口減少しているのかと考えた時に、「魅力に感じる企業が少ない」のではないかと思います。だから就職の為に県外へ人が流れる。魅力的な企業が増えることで、就職先が増え、大学も増え、住む人も増えると、中学校や小学校も人が増えていく。だから魅力ある企業が増えることが佐賀県の人口減少を食い止めるきっかけになると思っています。それに… ――それに? 高橋さん うちの会社は現在7名が働いてくれています。会社の暗黙のルールみたいなものですが、「仕事は会っている時にはしない」んです。トランプや麻雀などで遊んだり、みんなでおいしいご飯を食べています。普通の会社では考えられないことかもしれません。そして2年後には年収1,000万円を全員が稼げるようにする。仕事は遊びながらも、やる時は集中して完璧なものに仕上げる7人のプロフェッショナルな組織にしたいんです。 ――その会社、めちゃくちゃカッコいいじゃないですか。なんか漫画ワンピースの麦わら海賊団みたいですね。 高橋さん 一番遊んでいて、一番給料をもらっていて、一番楽しそうな、カッコいい集団にしたいんです。(笑) そんな私たちDessunが、経営者が困っている時に現れたら、経営を立ち直せるみたいな感じになりたいですね。私の会社のようなIT企業は、どこにでも作れると思うんです。Dessunが、佐賀の中での新しい会社の一つの見本になれる気がします。そうすると、きっと佐賀という地域への社会貢献にもなるんじゃないかなと思っています。 高橋真哉さんプロフィール 1983年東京都生まれ。Indeed Japan初期メンバーとして入社し、上場企業を中心とした100を超える採用に携わる。その後、Indeed初のリクルート出向を行い新プロダクトの開拓および、リクルート系代理店のマネジメントを行う。2020年に自社プロダクトに着地するサービスは顧客への本質的なサポートでは無いと考え、株式会社Dessunを創業し中小企業の顧問事業も務めている。